§§§  サラ・ベルナール と アルフォンス・ミュシャ  §§§



サラ・ベルナール 1860年代の肖像



    アール・ヌーヴォーを代表する画家・イラストレーター・デザイナー
    である アルフォンス・ミュシャ Alfons Maria Mucha 1860-1939  
     ( 母国チェコではムハ ) の大ファンなんですが、彼やアール・ヌー
    ヴォーについてあれこれ調べると当時のフランスの大女優、サラ・
    ベルナール Sarah Bernhardt 1844-1923 の名がでてきます。   
    ミュシャは、ベルナールが主演した演劇「ジスモンダ」のポスター
    で一躍、有名になりました。                   

  



「ジスモンダ」 ポスター
リトグラフ 1895 216.0 x 74.2 cm


      「ジスモンダ」は劇作家ヴィクトリアン・サルドゥー Victorien
       Léandre Sardou 1831-1908 による戯曲で、ベルナールのため
      に書いた6本のうちの5本めにあたります。ルネサンス劇場での
      初演は1894年10月31日。12月24日からは、サルドゥーがベルナ
      ールのために書いた最初の作品「フェードル」が上演され、1895
      年1月4日から「ジスモンダ」を新演出で再演する宣伝のため、
      1月1日、このポスターがパリの街に登場しました。    

      ポスターは第3幕のクライマックスをモチーフにしたデザインに
      なっており、15世紀のアテネの王妃ジスモンダ役のベルナールが
      頭にアイリスの花飾り (受難の象徴) をつけ、イエスを迎える棕櫚
      の葉 (永遠の命の象徴) を持ち「棕櫚の日曜日 (復活祭直前の日曜
      日) 」の行列に加わる情景を描いています。             
      縦に長いデザインは、当時としては斬新なもので、ジャポニスム
      (浮世絵や掛け軸の縦長の構図)の影響が指摘されています。

      1888年、パリに出てきたミュシャは絵画制作と生活のために本の
      挿絵や広告パネル、カレンダーの制作をしていました。生活は苦
      しく、1日14時間働いていたそうです。
      1894年の年の暮れ(ミュシャ、34歳)、クリスマスでポスター
      制作の担当者が休暇をとっている中、急遽、ミュシャにポスター
      制作の依頼がなされました。しかしポスターの掲示まで、わずか
      1週間しかありませんでした。               
      ミュシャにポスター制作を依頼した印刷所のスタッフは、出来上
      がったポスターに難色を示しました。しかし、ベルナールに見せ
      たところ、彼女は黙ったままミュシャを抱きしめたそうです。 

      わずかな期間にもかかわらず、完成したポスターはご覧のとおり
      見事なもので大評判となりました(ポスターの制作依頼を受ける
      以前からミュシャはベルナールの舞台を見ていたのだろうといわ
      れています)。ポスターは4千枚準備されましたが貼り出すと 
      すぐに剥がされて持ち去られたそうです。          
      この評判はベルナールの立場からみても幸運な出来事でした。ベ
      ルナールは1893年にルネサンス劇場を買い取って経営にも参加し
      ていましたが、1838年設立の歴史ある劇場をうまく経営すること
      ができていませんでした。そうした中、「ジスモンダ」再演が成
      功を収めました。                        

      ベルナールはポスターの見事な出来栄えに感嘆しミュシャと6年
      に渡る独占契約をしました。これを契機にミュシャはアール・ヌー
      ヴォーを代表するアーティストとなり後世に名を残します。    


「ジスモンダ」以降、ミュシャがベルナールのために制作したポスター


   「椿姫」1896   「ロレンザッチオ」1896 「サマリアの女」1897 


「メディア」1898  「トスカ」1899  「ハムレット」1899 

 
       ミュシャはベルナールのためにポスターだけでなく、衣装や装身具
       もデザインしました。「メディア」のポスターに描かれている左腕の
       蛇の装身具は特に有名で、ジュエリー作家であるジョルジュ・フーケ
       によって実際に製作されました(下図)。        
       ミュシャがデザインしフーケが製作したあれこれは こちら でどうぞ。







       ベルナールはとてもアクティブな人物だったようで、オーストラリ
       アや、アフリカにまで一座を率いて巡業し、特にイギリスやアメリ
       カには何度も行っています。                      
       また、シリンダーやディスクによる録音をしていて、1880年代には
       ニューヨークのトーマス・エジソン宅を訪問し、ジャン・ラシーヌ
       「フェードル」の朗読を録音しています。             
       Wikipedia のサラ・ベルナールの項 には、この録音のリンクが
       あり、「黄金の声」と賞賛された彼女の声を聞くことができます。
       また、10本の映画に主演(そのうち2本は伝記映画)していて、
       なんと YouTubeに映像や声 が Upされています。ホント、YouTube
       ってありがたいですねぇ。                      
       1905年、「トスカ」上演中に転落する場面で、スタッフのミスが
       原因で右ひざに重傷を負い、1915年に右脚を切断しましたが、
       それでも舞台に出演したそうです。            

       ミュシャは日本でも人気のある画家なので数年に一度、展覧会が
       開かれています。その会場で、タバコ用巻紙「JOB」のポスターや
       各地で開かれた展覧会カタログ等を集めました。         

       その昔、会社のクラブ活動で絵画部に所属してたころ、「JOB」を
       色鉛筆で模写して新人勧誘のポスターを制作したことがあります。
       優雅に流れる髪の表現が大変でした(下図)。            





タバコ用巻紙「JOB」 ポスター
リトグラフ 1897 66.7 x 46.4cm

「JOB」は、タバコの紙を製造しているジョセフ・バルドー社の
商標です。「JOB」のポスターは大小2種類ありデザインがまっ
たく違います。上に挙げた「JOB」は小のほうです。     



<<< サラ・ベルナールに関連した雑誌、書籍、文献 >>>


サラ・ベルナールの一生
本庄桂輔/著
新潮社/刊

サラ・ベルナール ―運命を誘惑するひとみ―
フランソワーズ・サガン/著、吉田 加南子/訳
河出書房新社/刊

ベル・エポックの肖像 ―サラ・ベルナールとその時代―
小学館ヴィジュアル選書
高橋 洋一/著
小学館/刊

別冊太陽 骨董をたのしむ #19 アール・ヌーヴォー アール・デコ IV
の記事、「モンテスキウと同時代の文学者
たち」原田 武。サラ・ベルナールに関する
写真他が9点あります。8頁。     
平凡社/刊

別冊太陽 骨董をたのしむ #23 アール・ヌーヴォー アール・デコ V
サラ・ベルナールに関する絵画・工芸・ 
ポスターなどを紹介。         
平凡社/刊

図書 2001年 7月 第627号
「見なおされるサラ・ベルナール ― 神話・伝説の彼方に」渡辺 淳
近年、刊行されたベルナールに関する書籍
(主に洋書) が紹介されている5頁の寄稿文。
「図書」は岩波書店のPR誌。大きな書店で
すと、レジカウンターの近くに置いていて
無料で配布しています。        
岩波書店/刊

芸人その世界
永六輔/著
各界の芸人のいろいろなエピソードを集め
た本。ベルナールの声と足にまつわるエピ
ソードがあります           
岩波現代文庫
岩波書店/刊

ユリイカ 2009年 9月号
特集*アルフォンス・ミュシャ 没後70年記念特集
「ジスモンダ」の衣装を着たベルナールの
写真等、内容豊富です        
青土社/刊

サラ・ベルナール メディアと虚構のミューズ
白田 由樹/著
大阪公立大学共同出版会/刊

女性空間 2009年 26号
サラ・ベルナールとフェミニテの戦術 ―女性の領域としての舞台芸術―
(日仏女性研究学会会報誌)
白田 由樹/著
日仏女性資料センター/刊

図説 ベル・エポック 1900年のパリ
パリ万博を中心に、370点の絵画、写真、
ポスターを用い当時の文化とアートシーン
を紹介。ベルナールには7頁を割いて紹介
しています。             
フロラン・フェルス/著 藤田 尊潮/訳
八坂書房/刊

パリ世紀末ベル・エポックに咲いた華 サラ・ベルナールの世界
2018年から全国を巡回し、最後に渋谷区立
松濤美術館で開催された展覧会の公式図録
兼書籍。女優としての活動から、ミュシャ
やルネ・ラリックとの交流まで、総合的に
彼女の生涯を紹介した日本で初となる展覧
会の資料。              
文園企画制作事務所/編集
オクターブ/刊

渋谷区立松濤美術館でのポスター

サラ・ベルナール(世界の伝記 コミック版 #49)
小学生を対象とした学習マンガ
山田 一喜/漫画、磯見 仁月/企画・原案
白田 由樹/監修
ポプラ社/刊


* ミュシャの主要な作品や略歴等、内容豊富です
アルフォンス・ミュシャ   ミュシャを楽しむために

* ミュシャ ファウンデーション (作品、写真が共に豊富です)
    http://www.muchafoundation.org/home






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